「退職以降、東京・立川に家を残しながらも、生活はほとんどこっち。最初は"自由さの不自由"に戸惑いましたが、製材所からもらってくる木材の切れっぱしで手掛け始めた木工が楽しくなりましてね。建築には使えない半端な材料ですから、できあがる椅子や棚台などもどこかチグハグなんですよ。でも、材料を見ていると、『こういう物を作ったら?』って、木が話しかけてくるんだね。寸足らずの材料ですから、背もたれがやけに短い椅子ができたりする。でも『これ、面
白いね』って言って買ってくれる人が何人かおり、みんなリピーターになってくれるんですよ。」
最初は趣味程度に始めた木工も、10年やっているとウデはプロ。愛情がこもる分だけ、家具屋の店先に並ぶ既製品にはない味わいが醸し出され、それが人気を呼んでいる秘密なのだろう。わざわざ、東京くんだりから、西牧さんの作る家具を買いに来る人がいるという。
「もちろん、お客さんが多いに越したことはないんですが、商売でやろうとは思っていません。これは草木染めで機を織る女房も同じ考えなんですが、あれこれ形を決められたり、納品期日に追われるなんてとても耐えられない。だから宣伝もしないし、広告する気にもならない。
おかしなもんですね、昔は広告屋だったのに……」。
インタビューに対して、「これだけしゃべりつづけると、3ヶ月は誰とも口をきかなくてもいい」とおっしゃる西牧さん、今年(2002年)始めに、これまで東京・立川においてあった住民票をこの上粕尾に移し替え、自然の中に身を置き、木と対話しながらのログハウス生活で生涯を貫く決意をしたという。